白磁に“蟲の影”を刻む堀 貴春、総合大賞が見た造形の真実
Rachel Ellis
Published Sep 01, 2026
堀 貴春は、白磁の器に昆虫の“形”だけでなく、構造や気配まで写し取る陶磁器作家だ。東京で育ち、金沢で制作を続ける彼の作品は、硬い素材なのにどこか生き物の動きを感じさせる。2019年のテーブルウェア大賞総合大賞・経済産業大臣賞など、評価は実績として積み上がってきた。
この記事では、堀 貴春の経歴(東京在住、学校で培った技術、金沢卯辰山工房の修得)と代表作の白磁シリーズを整理し、個展「蟲のかたち」や出展歴を手がかりに“なぜ昆虫なのか”を読み解く。制作の見取り図は、観察と質感設計にある。
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 名前 | 堀 貴春(Hori Takaharu) |
| 拠点 | 石川県金沢市で制作(1996年東京在住の経歴) |
| 学歴・修了 | 2014年東京学館船橋高等学校卒業/2016年愛知県立瀬戸窯業高等学校修了/2019年金沢卯辰山工房修得 |
| 主なモチーフ | 昆虫をモチーフにした白磁シリーズ(例:白蟲、白透眼、オレンジモドキ) |
| 代表個展 | 個展「蟲のかたち」(山ノ上ギャラリー) |
| 主要受賞 | 2019年テーブルウェア大賞総合大賞・経済産業大臣賞/2020年金沢市長最優秀賞 |
| 購入・連絡 | 公式サイト:utsuwamushi.com、連絡先:takaharu.h@utsuwamushi.com |
堀 貴春とは——“白磁の硬さ”に生き物の輪郭を重ねる
堀 貴春の作品を最初に前にしたとき、目に入るのは白という静けさだ。ところが見続けるほど、静けさは単なる色の話ではなくなる。昆虫の輪郭、関節の連なり、透けるような面の設計——それらが器の内側と外側を行き来し、硬質な白磁の中に“動きの気配”を作り出していく。
彼が選ぶのは、虫そのものの写生ではない。むしろ、昆虫が持つ形態の論理——背中の曲面、触角の細さ、複眼の集まり、羽の重なり方——そうした構造を観察し、白磁の質感へ変換する。結果として、鑑賞者の視線は「これは器だ」と理解する手前で止まり、もう少しだけ“生物”として見てしまう。
東京から金沢へ——学びの節目が造形の土台になった
堀 貴春の経歴は、職人技を積み上げる道筋が見えるタイプだ。1996年、東京在住の日本人陶磁器作家としてスタートし、2014年に東京学館船橋高等学校 美術工芸科を卒業。次の年ではなく、次の段階へ確実に進んだ。2016年には愛知県立瀬戸窯業高等学校を修了している。
陶芸の世界では、学校や工房で“何を学んだか”が作品の癖に直結する。堀 貴春の場合、2019年に金沢卯辰山工房での修得を終えた点が大きい。金沢は工芸が強い土地で、素材の扱いが丁寧に教わるだけでなく、地域の評価軸に触れる機会も増える。現在は石川県金沢市で制作しており、ここで作品の方向性がより明確になった。
東京の視点と、金沢の工芸的な視座。両方が、白磁という選択に合流している。白はどこにでもある色ではない。白磁を“どう見せるか”を突き詰めたからこそ、虫の形が生きてくる。
白蟲、白透眼、オレンジモドキ——代表作が語る“素材変換”
堀 貴春の主な作品群として挙げられるのが、昆虫をモチーフにした白磁シリーズだ。例として「白蟲」「白透眼」「オレンジモドキ」などが知られている。
ここで重要なのは、単に虫をかたどることではない。白磁は焼成で姿を変える素材だ。温度、釉薬、焼き締まり方、表面の微細な凹凸——その条件が、見た目の“静けさ”を支える。一方、昆虫には複雑な構造がある。硬い外骨格の反射、部分によって異なる光の抜け、触角や脚の細部。堀 貴春は、その両者をぶつけ、折り合いをつける。
「白蟲」——輪郭の密度を上げて“観察”を形にする
「白蟲」は“白い虫”の名の通り、主張の中心を輪郭に置く。細部が増えるほど、器は複雑に見える。しかし複雑さは散らばりではなく、視線が追える密度として配置されている。近づけば近づくほど、形が分解されるのではなく、逆に情報が整っていく。
「白透眼」——透けと密度のバランスが見せる複眼の気配
「白透眼」では“透け”が鍵になる。白の世界で透けを語るのは難しい。透明度はガラスほど単純ではなく、白磁の厚みや表面の状態に依存するからだ。そこに複眼の集まりの印象が重なり、単なる形状ではない「見え方」が成立している。
「オレンジモドキ」——色で虫の“擬態”を仕掛ける
「オレンジモドキ」は、色の導入が“モチーフの意味”を変える例だ。オレンジは昆虫の世界でも目立つ色だが、ここでは図鑑のように説明する色にならない。むしろ、白磁と対比しながら、擬態のように視線を惑わせる。器を生活の中に置いたとき、光の具合で印象が動くのがこの種の作品の強みだ。
個展「蟲のかたち」——作品の“読み方”を一度に提示した場
堀 貴春の個展として挙げられるのが「蟲のかたち」(山ノ上ギャラリー)。このタイトル自体が、作家の姿勢を示している。“蟲”を説明するのではなく、“蟲のかたち”として提示する。つまり観察の成果が、そのまま展示の骨格になる。
個展の現場では、作品は並べられるだけでなく、順番が生まれる。白蟲の静けさ、白透眼の視線誘導、オレンジモドキの色の揺れ。そうした差が、来場者の頭の中で比較を起こし、「白磁=無色」の常識を崩していく。器を見ているつもりが、じつは“素材の性格”と“形態の論理”を同時に見ている。そんな状態になる。
展示が成功するかどうかは、作品の完成度だけでは決まらない。来場者の見方が変わるかどうか。それが「蟲のかたち」では起きている。
東京アートフェア、日本橋三越、金沢市工芸展——評価は“場”で強くなる
堀 貴春は個展だけでなく、さまざまな場で作品を提示してきた。出展実績としては、東京アートフェア・カンパニー、日本橋三越、金沢市工芸展などが挙げられる。
こうしたイベントや百貨店の展示は、作家の“市場での理解”を加速させる。作品は写真やSNSで伝わりやすいが、白磁は特に現物の光の当たり方で印象が変わる。会場で見た人が「思ったより立体的だ」「質感が違う」と感じると、評価は強くなる。イベントは、その差が起きる場所だ。
さらに、複数の地域で提示されることで、モチーフである昆虫が持つ意味も広がる。虫を見慣れた人には親しみがあり、そうでない人には不思議さがある。白磁という統一感が、そのどちらにも橋をかける。
受賞歴が示す到達点——2019年大賞から2020年最優秀賞へ
堀 貴春の評価を語るうえで外せないのが受賞歴だ。2019年にはテーブルウェア大賞で総合大賞、さらに経済産業大臣賞を受けている。テーブルウェア大賞は、日常の中で使われる器の価値を重視する場でもあり、単なる造形美ではなく“生活の文脈”に作品が入っていることが前提になる。
続く2020年には、金沢市長最優秀賞を受賞した。地域の工芸評価で“最優秀”に選ばれることは、作品が地元の目を越えて、技術と表現の両面で認められたことを意味する。受賞は偶然ではない。工程の選択、素材の扱い、展示での見せ方。そうした積み重ねが、評価の言葉になる。
「総合大賞」が意味するもの
総合大賞は、見た目の強さだけでなく、器としての成立や完成度、独自性も含めて見られる。昆虫モチーフは一見すると意外性があるが、堀 貴春はその意外性を“白磁の説得力”に変えている。白が逃げない。むしろ、逃げ道を消している。
制作の核——昆虫の観察から質感設計まで、硬さと動きを両立する
堀 貴春の制作スタイルは、幼少期からの昆虫好きがベースにあるとされる。だが、趣味の延長で終わっていない点が重要だ。昆虫の形態や構造を観察し、その情報を白磁の滑らかな表面や質感へ融合する。生物の“動き”と、硬質素材の対比。それが新しい美的表現を生み出す。
このプロセスは、作品のどこかに必ず痕跡として出る。たとえば細部の処理が、単なる装飾ではない。器の厚み、曲面のつながり、影が落ちる位置。観察した形態を、そのまま写して終わらせるのではなく、鑑賞体験として再設計している。だから、見た人は“虫を見た”だけで終わらない。素材と光を、自然に考え始める。
また、制作拠点が金沢であることも見逃せない。工芸の町では、作り手が常に比較される。良い意味での競争が生まれ、作品の言葉が研ぎ澄まされる。堀 貴春は、その環境で白磁シリーズを磨き続けてきた。
購入や連絡先——公式情報で確かめる
堀 貴春の公式情報は、utsuwamushi.comにまとまっている。問い合わせ先としては takaharu.h@utsuwamushi.com が案内されている。作品の入手や最新の展示情報を確認したい場合は、まず公式サイトを起点にすると確実だ。
堀 貴春の“次”——白磁に昆虫を据える意味が広がる
堀 貴春の活動は、昆虫というモチーフだけで語り尽くせない。白磁という普遍的な素材に、観察した生物の構造を持ち込み、日常の器として成立させる。その点で、作品は単なるコレクション対象ではなく、生活の見え方を更新する道具に近い。
そして、社会の中で評価軸も変わっている。説明のためのアートではなく、触れたときに初めて分かる質感や、光の当たり方で見え方が変わる構造が支持される。堀 貴春の白磁は、その流れに素直に適応している。硬さと動きの両立。これを“いつもそこにある器”として提示してきたことが、評価の根になっている。
白磁に刻まれた“蟲の影”。次にどんな形態が白の中に立ち上がるのか。注目が続く理由は、派手さではなく、観察の精度と素材への礼儀が、作品の説得力になっているからだ。
Frequently Asked Questions
堀 貴春の主な作品テーマは何ですか?
昆虫をモ